昭和61年に発刊された月刊「医道の日本」500号に葛野玄庵が寄稿させていただいたものです。

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当原稿が書かれた昭和61年にはまだ子午鍼法は補の手技として確立しておりませんし、子午から奇経、本治への連動もされておりません。氣鍼医術の夜明け前の内容としてお読みいただけるとありがたいです。現在の氣鍼医術子午鍼法で時間的考察はほとんどありません。

はじめに

現代ほど天地四時陰陽の不調和が拡大された時代は、歴史に類を見ないだろう。
日常の便利さの中に安穏とすることをすべて否定するわけではないが、はたしてこのままで人間に未来はあるのだろうか。
大自然と人間の共存を今ほど真剣に考えなければならない時はないだろう。
見まわすに、あらゆる食品、食物の汚染は深く侵攻し、新薬の害は終わりをしらず、水や空気まで発ガン物質が含まれるというのである。
これ以上、天の道理を軽んじ、己れの利するままにいきれば、人間はやがて、農薬で田畑から消えていったミミズやどじょうのように自滅の道をたどるのは明らかであろう。
余談になったが、筆者は、日々の臨床経験の中で古人の知恵のすばらしさと、天人合一の自然哲理の深さを将に実感させていただけることを感謝し幸せに思っている。
さて、次に臨床例を報告するが、天人合一思想のすばらしさと再認識を訴え、現代人として治療だけでなく、不調和な今の世の中をともに再考する機会となれば幸いである。

1:経絡時調整の意味

経絡時とは、十二経絡が、盛衰する時間帯をいい、古人のいう、子・丑・寅・卯・・・の十二支の時刻の単位に、十二経絡を、胆・肝・肺・大腸・・・と、順次あてはめたものである。つまり、子(ね)の刻(23ー1時)を始まりとし、それに胆経をあて、丑(うし)の刻(1−3時)は肝経、寅の刻(3−4時)は肺経・・・というように、二十四時間、時間帯によって、大自然の潮の干満の如く、十二経絡も気血の盛衰があるのである。

また、この経絡時調整を「子午運気の治療法」ともいう。”子”とは子(ね)の刻をいい、”午”とは、午(うま)の刻を表し、子の刻(23−1時)は『陰極生陽』、また、午の刻(11−13時)は、『陽極生陰』を意味し、この子午の対角線を中心に二十四時間の気血の盛衰を考えたものであある。
また、運気とは、五運六気のことで、五運とは、木・火・土・金・水であり、六気は、風・熱・湿・燥・寒・火をいうのである。
つまり森羅万象すべてがこれらの影響を常に受けており、大自然の小自然たる人間への影響の大なるを説いているのである。そして、小自然たる人間を栄養する気血が何かの障害で、旺気すべき時間帯にとどこおり不調和を呈するとき、疾病症状が現れると考え、その調和を保つことにより、病を治すという治療法なのである。

2:臨床例

▶︎▶︎▶︎症例1
患者)S・Y 31歳 女性 教職
初診)61年12月26日
時間)17時40分(酉の刻)
主訴)右第2指の痺れ
アトピー性皮膚炎で来院したのであるが、「実は右手の人さし指が2年前より痺れてチョークが持ちにくい」という。
治療)右第2指は大腸経で対称経は腎経であり、時間は17時40分。”大腸ー腎=卯ー酉”の関係がピタリとあてはまる。慢性なのでどうかと思ったが、左腎経の太鐘穴(絡穴)に快い圧痛を認めたので治療にかかった。金の30番鍼を圧鍼で刺入せず、約10秒で上腕全体に重みが出、20秒で鍼を離すと重みとともに痺れもとれてしまった。

▶︎▶︎▶︎症例2
患者)Y・H 56歳 男性 会社員
初診)61年1月4日
時間)11時30分(午の刻)
主訴)咳・呼吸時の右胸の激痛
年末多忙で風邪をひいたらしく、無理をしていたら一週間前より、呼吸器にズキンと痛み、咳などすると激痛でどうしようもないという。この場合、右胸の腎経の神蔵穴あたりに500円玉くらいのせまい範囲で激痛があった。

この時間帯は心経の旺気する時で、経絡時が合わない。しかし急迫性の症状が著明であり、こんな時は時間に無関係で良く効果があるものである。そこで、腎経ー大腸経の調整をはかるべく対称経の左大腸経をさぐると、温溜穴(郄穴)に明らかな圧痛があった。金の30番鍼の経に従った圧鍼、それだけで(約10秒)完全に痛みは消失した。患者も驚いたが、筆者もあっけにとられるばかりであった。

▶︎▶︎▶︎症例3
患者)F・Y 55歳 女性 会社員
初診)61年1月20日
時間)14時(未の刻)
主訴)両方の耳鳴り
6年前よりまず左耳、約4年前より右耳に、セミの鳴くような耳鳴りがし医師にかかったが、変化なくあきらめているという。
治療)この場合、慢性症状のうえ時間帯も合わないが、試しにと思い圧痛を探した。耳は腎の主りと考え、まだ新しい右耳(右腎)に対する左の大腸経を蝕察すると、曲池穴に快い圧痛を認めた。金の30番鍼を経に従って曲池穴に2〜3ミリ刺入し10秒ばかりすると、「ス〜ッと右耳が楽になった」という。しめた、と思い、押し手をそのままに気を集め、30秒ほどで抜鍼し、その穴に3分の1米粒の灸を7壮すえると9割はスッキリしたという。
しかし、左耳が鳴っているので、今度は右の大腸経を同様に触察し、やはり曲池穴に同じように金の30番鍼を刺入し気を1分ばかり集めたが、少し楽になったという程度であった。この患者は本治法を中心に継続治療中である。

3:圧痛の取り方と気がついたこと

①経絡の流れに従って、第2指先端で触察し、絡穴・郄穴・原穴、もしくはその周囲の陥凹部やポヨっとした凹みを捉える。

②みかんを指先でゆっくりと圧し、5ミリほどへこませるほどの圧力でツボを探す。

③圧痛は2ケ穴を同様に圧し、比較して患者にどちらが快い痛みを強く感じるか問う。

④快い圧痛が基本であるが、パッと手をひくような痛みの場合もある。

⑤慣れると圧痛を確かめることもなく、指先でツボを探ることで十分である。

⑥用鍼は金30番を主に使用するが、圧鍼、もしくは2〜3ミリの刺入で事足りる。しかし、1〜5番の金・銀・ステンレス鍼でも効果は認められる。

⑦特に、1分から7分間くらいの置鍼を行う時(慢性症に対して)に、細鍼は便利であり効果がある。

⑧対称経絡を使う、例えば、右手三焦経の痛みには、左足脾経というように。

⑨あらゆる痛み、症状に使用でき、特に急性症状には著効がある。

⑩二経三経にわたることもあるが、あくまで標治法であり、望・聞・問・切の本治法をしなければ効果の持続力は半減する。

おわりに

かつて医師に見離された老人を診た時、あまりに潮の満干に症状の良し悪しが符合するのに驚いたことがあった。
大自然に対して、人間を小自然といった、素問の時代の古人のすばらしいことか。
現代の子供たちは、このままでは寿命が何歳になるか解らぬという。延びるのかと言えば、その逆だという。そのはずであろう。肥満や虫歯は今に始まったことではないが、成人病が子供に増え、朝礼では貧血で倒れ、転べば骨折、そんなヒョロヒョロな子供たちが増えていることをみれば理解できる。何という時代か。東京の玉川に背の曲がった魚が見つかったのは20年以上前だが、人間に影響のないわけがない。
天の道理を熟考し、大自然との調和をはかり、病を治し、人間を治し、あわよくば世の中をも治したいものである。